「彼女なんていないって」

「そう、なんだ……」

「いたら美波を部屋に入れるわけがないだろ」

「……それもそうだよね」

「……なに? 俺に彼女がいるかどうか気になった?」

「そ、そんなんじゃないし! 今のは一般的な疑問っていうか!」


なんだか、さっきから輝先輩の言葉に翻弄されてばかりだ。
いつも以上に彼のペースに巻き込まれていく。


「なんだ、残念」

「……っ」


意味深な笑顔を向けられて、鼓動が跳ね上がる。
そんな私を余所に、輝先輩は折り畳み式のローテーブルを出した。


「これでいい? ふたりで使うとちょっと狭いかもしれないけど、一緒にやる方がいいよな」


ローテーブルを広げ、麦茶を置く。
確かに少し狭いけれど、学校で使っている机よりは大きいし、ふたりでも使えるだろう。


「先輩はあっちの机でやらないの?」

「美波、サボるつもりだろ?」

「違うし!」

「うそうそ」


冗談っぽく笑う彼に、ムッとした顔を返す。


「せっかく一緒にいるのに別々で勉強するのは寂しいだろ?」


だけど、輝先輩がそんな風に言うから、すぐに表情筋の力が抜けた。