「うちに来る?」

「えっ?」

「今日は親も兄貴もいないし、その方が静かだから集中できるだろ?」

「で、でも……」

「店だと混んでるかもしれないしな」


確かに、それは充分にあり得る。
夏休み真っ只中となれば、ファーストフードもファミレスも学生や家族連れで賑わっていてもおかしくはない。


だけど、輝先輩の家に行くのはためらった。


「嫌?」

「そういうわけじゃ……」


嫌かと言われれば、決してそんなことはない。
ただ、理由は上手く答えられない気がする。


「じゃあ、そうしよう。考えてる時間も勿体ないし」


そんな中、彼はさっさと決めると、「行こう」と笑顔を向けてきた。
私はうっかり頷いてしまい、流されるままに図書館を出る。


電車に乗って二駅。


「意外と近かったんだね」


輝先輩の家とうちは二駅しか離れていないと、初めて知った。


「だろ? 俺も最初に美波の家を知った時は結構びっくりした。朝とか会ったことないのにな」


そういえば、同じくらいの時間帯の電車に乗っているはず。


それなのに、顔を合わせたことはない。
登校時はともかく、下校時も一度も鉢合わせたことがなかった。