「お話し中、しゃしゃり出て申し訳ございません」

 怖がらない。怯まない。たじろがない。

 彼に睨まれながら、頭の中で呪文のように繰り返す。

「その、わたしが悪かったのです。裏口からコソコソと入って来ようとしたのですから。大佐がそれを怪しげに思うのは当然です」

 公爵に閣下をつけること、イーサンのことを大佐と呼ぶこと、どちらも迷った。だけど、公爵とわたしの間にある距離は、赤の他人とのそれよりも遠い。

 親し気にファーストネームで呼ぶとか、敬称をつけないとかはよくないかもしれない。

 厨房内に痛いほどの沈黙が横たわっている。

 なにか反応してよ。だれでもいいから、アクションを起こしてちょうだい。

 そう切望してしまうほどの間があき続ける。

 その間、公爵の蒼い瞳は微動だにしない。そして、その表情をかえるわけでもない。

 まるでわたしの心を見透かすかのようだわ。

 でも、なにも悪いことをしてはいない。