わたしだって「お飾り妻」でなければ、彼に魅せられたかもしれない。あくまでも「かもしれない」だけれども。

 とにかく、それほどハミルトン・ブロックという人はいい人なのである。

「奥様、大丈夫ですか? イーサンがとんでもないことをしでかし、申し訳ありません」
 
 ハミルトンは、両手でコック帽をクシャクシャにしつつペコペコし始めた。

「料理長、わたしなら大丈夫です。だから、やめてください」

 彼にやめるように言ってもきいてくれない。

「ええっ? 奥様だって?」

 ハミルトンにふっ飛ばされて体勢を整えた少年は、驚き顔でハミルトンとわたしを見ている。