「早急にエルガー帝国に逃げた方がいいと言われ、私兵の護衛で国境に向かった。そうしたら、襲って来やがった」

「何でも屋」の事務所の灯りはつけず、窓から射し込む月の光を頼りにジェロームの話をきいている。彼のどこにでもあるオーソドックスな顔は、死人よりも蒼白くなっている。

「部下の中に裏切者がいた。そいつから『クソ女』、あっ、いや、クラリスが裏切ったから仕方なしに殺した、と報告を受けたときからおかしいとは思っていた」
「ジェローム、ちょっと待って。では、あなたが『クソ女』、いえ、姉を殺したのではないの?」
「まさか。あいつを利用はしていたが、あいつもおれを利用していた。それでもたがいに気は合っていた。いっしょにいて楽しかったし、落ち着けた。あいつはどう思っていたかはわからんが、少なくともおれはあいつを気に入っていた。だが、おれも立場上そういう素振りは出来ない。だれかがいる前では、あいつをぞんざいに扱った。だから、その報告を受けて内心ではショックだった。あいつを殺した部下をぶち殺したくなった」
「そうだったのね」

 ジェロームが手を下したのであろうとなかろうと、姉が殺されたことはたしかなこと。