「わたしよ。わたしがこの恰好でぽんこつ子息に近づくの。ほら、わたしってば男装レディでしょ? おじさんたちから大モテだから、ぽんこつ子息もすぐに食いついてくるわ」
「それはダメだ、ミユ。そんなことは、おれが許さない」

 ブレントンが勢いよく立ち上がったものだから、ローテーブル上の空のカップが「カタカタ」と震えた。

「ブレントン様、ただの潜入調査です。危険なことはありません」
「違うっ! ミユ、そこではない。いくら罠にかけるためとはいえ、きみが他の男と一緒にいるということが嫌なのだ。きみと二人っきりで一緒にいられるのは、おれだけだ。他の男と親し気に話をしたり笑い合う姿を想像するだけで……」

 彼は、ボスの空になっているカップをわしづかみした。

「嫉妬で狂いそうだ」
「パリンッ」

 ブレントンは力を入れたように見えなかったけれど、彼の手の中にあるカップが粉々になった。