あっと思う間もなかった。

 彼の太くて立派な両腕にがんじがらめにされてしまった。そのときには、彼の唇がわたしのそれに重なっていた。

 生まれて初めての口づけは、小説のように甘酸っぱいものではなかった。

 わたしの顔の上部分に、銀仮面が容赦なく押し付けられた。それがまた痛いのなんのって。

 というわけで、初口づけの感想というか印象は「痛い」である。

 それはともかく、明け方の人っ子一人いない南街区の路上で、わたしたちはしばし唇を重ねた状態でいた。