「ミユ。きみは、寒くないか?」

 彼は、わたしに近付いてきた。そして、おもいっきり腕を突き出せば、わたしを殴り殺せる位置で歩を止めた。残念ながら、この距離ではわたしは彼を殴れない。リーチが短すぎて、どれだけがんばっても彼に拳は届きそうにない。

「公爵閣下、大丈夫です。寒くありません」

 寒いけれど、彼に軟弱だと思われたくないから嘘をついた。

「そのわりには唇が真っ青だが?」

 彼は、さらにわたしとの距離を縮めた。これだけ近ければ、わたしでも彼を殴り飛ばせる。

「そうですか? ですが、公爵閣下の唇も真っ青ですよ」

 指摘し返すと、彼は形のいい真っ青な唇を引き結んだ。