一方、ジェロームは一人で飲んでいたり、だれかがやって来て話をしながら飲んだりと、飲むか喋るかシガレットを吸うこと以外とくになんの動きもない。

 店内中央に掛かっている柱時計を見ると、もう少ししたら夜が明けてしまう。

 今夜はもうダメね。

 料理長のハミルトンをはじめとした料理人たちは、早朝に起きだしてくる。とくにいまは、屋敷に公爵がいる。彼らは、毎食気合を入れて調理をしている。

 彼らが起きだしてくる前に屋敷に戻ろう。

 どうせこれ以上ねばったところで徒労に終わるだけでしょうし。

 引き際がかんじんよね。

 ということで、「三日月亭」をこっそり抜けだし、帰途についた。