彼女が出て行くと、自分が公爵家にやって来たのだとあらためて自覚した。受け入れられているわけではないけれど、とりあえずここにいる。

 カートに近づくと、クローシュを持ち上げた。

 美味しそうなにおいが鼻腔をくすぐった。いいえ。襲われたといっていいかもしれない。

「グルルルル」

 お腹の虫が、途端に騒ぎ始めた。

 とりあえず、ありがたくいただくことにしよう。

 というわけで、サササッとカートからお茶用のテーブルにすべてを移した。そして、可愛らしい椅子に腰かけると両手を合わせて感謝の気持ちをあらわした。

 とにかく食べた。一心不乱に食べ続けた。食べながら、なぜか涙が溢れてきた。