五千歩譲って屋敷に公爵と二人っきりであれば、耐えられるかもしれない。それでもやはり、そのシーンを想像しただけで照れくさくて恥ずかしすぎて顔から火が出そうになる。

 しかし、あいにく二人っきりではない。遅くまで起きて待っていてくれたモーリス。そして、寒い中を馬車を馭してくれたイーサンがいる。

 とくにイーサンは、公爵とわたしの仲を誤解している節がある。その証拠に、彼は公爵をこれでもかというほど揶揄っている。それから、いつも可愛らしい顔にニヤニヤ笑いを浮かべてこちらを見ているような気がする。

 そんな彼の前で公爵にお姫様抱っこでもされようものなら、ぜったいに彼はおおよろこびして公爵とわたしを揶揄う。

 可愛らしい彼によろこんでもらえるのはいいけれど、わが身をもってよろこばせるつもりはない。

 というわけで、せっかくの公爵の申し出を丁重に断った。