「かまわない。このくらいで風邪をひくほど、ファース王国軍の将軍はやわじゃないからな」
「ですが……」
「いいから、もたれていろ。それと、おれはブレントンだ。そう呼んでくれ」
「ブレントン……」

 知っているはずの彼の名前なのに、初めてきいたように思える。

 その名を口の中で唱える。まるでこの国を救う高貴な呪文のように。

 これ以上拒否をするのは、かえって失礼になってしまう。結局、お言葉に甘えて彼にもたれかかった。

 すると、彼はやさしく肩を抱いてくれた。

 またしても心臓が暴れまくっている。

 このような体勢で眠れるわけがない。

 ウインズレット公爵邸に帰りつくまで、瞼を閉じて眠っているふりをしなければならなかった。

 公爵は、あたたかくてやさしくて慈愛に満ちていた。