「イーサンッ!」
「おおっ、怖っ!」

 公爵が怒鳴ると、イーサンは笑いをかみ殺したように返した。

「ブルルルルル」

 また馬が鼻を鳴らす音だわ。

「そうだった。かんじんなことを忘れていた。ミユ、こちらへ来てくれ。これが、きみに会ってもらいたい『レディ』だ」

 公爵の手がまた伸びてきて、わたしの手をつかんだ。これまでと違い、今度はそれに抗いたかった。

 この期に及んで怖気づいてしまった。

 いっそ「会いたくない」、と駄々をこねたい。

 が、公爵はそんなわたしの臆病さに気がつくわけがなく、やさしく手をひっぱった。

 無情にも彼の横に引き寄せられ、彼の愛する『レディ』を目の当たりにすることになったのである。