バレンタインデー当日。
 今日の放課後も、いつものように、幼なじみの小坂敦(こさかあつし)と一緒に帰る約束をしていた。
 小中高と同じ学校で、しかも、クラスまでずっと同じ幼なじみなんて珍しい。俗にいう腐れ縁ってやつだ。

 下駄箱で敦を待っていると、いつものように颯爽と彼はやって来た。

「お待たせ!」

「うん」

 心なしか、私は少し緊張していた。
 いつものように敦と帰るだけ。それだけなのに。

「あれ? 元気なくない?」

「そう? 気のせいだと思うけど」

「今日もずっと、なんかソワソワしてなかった?」

 うそ……。ずっと、って何?
 そんなに見られてたんだ? 恥ずかしい。

 でもそんなことバカ正直に言えるわけもなく……。

「きもっ! そんなに私のことずっと見てたの?」

「はぁ!? そんなんじゃねぇし!」

 何だかんだ、私は元気だ。こうやって、いつも通り言い返すことだってできる。

 ただ、いつもと違うことが1つだけあった。
 目の前にいる敦を直視できないこと――。