「あれ……。いま、何時?」

ぼんやりとした意識のまま、瞼をこする。
まだ半分しか開かない目で壁に掛かった時計を見ると、もうすぐ7時だった。

薄暗いリビングのテーブルで、静かにパソコンのキーを叩いていた京極くんの手が止まる。
指が、長いな。
ちんまりとした自分の手にコンプレックスを持つわたしは、ひそかに京極くんの指をうらやましく思っている。

「わたし、また寝ちゃってたんだね」

「うん。ぐっすりと」

いつもこうだった。
京極くんから料理を教わり、味見をしたり、お茶を飲んでいるうちに、わたしはすとんと深い眠りへ落ちてしまう。

すっかりあたたまって心地よい胃袋に、のどかで無邪気な春の日差し。
おまけに京極くんのソファーはやわらかく、ふんわりと赤ちゃんのような、ベビーパウダーのような、なんともいえない安心する香りがするのだ。

それに眠っている間にかけてくれるブランケットは、おそろしいくらいに手触りがいい。
ここにあるものは必要なものしか持たない京極くんによって選び抜かれた、選抜メンバーだけなのだろう。

とにもかくにも、こんなにも最高な昼寝はほかにない。