「噓。さすがにそれは言ってないよ」

「そう」

あいかわらずの素っ気ない返事。
だけどよく見れば、すました顔の耳朶はふつふつと赤く染まっていた。


号泣して、ソファーで寝過ごして、キッチンで一緒にカレーをつくったあの日。

わたしは包丁とまな板から奏でられるリズムに身を任せ、無心で大量の肉や野菜を刻んだ。
気がつけば、まるでコピーアンドペーストを繰り返したかのごとく、きっちりと姿勢正しく切られた食材の山。

わたしの心はなにかを削ぎ落としたように軽くなっていた。
鍋はひとつでは足りず、ふたつコンロに並んだ。

鍋の中でじゅうじゅうと炒められる、わたしの断片。

なにかの供養みたい。
私がぽつりと漏らすと、京極くんは次々とスパイスを加えていった。


そうして出来上がったカレーは供養の産物ではなく、まるで天国からの贈り物のようにわたしの舌をとろけさせた。
するとなぜか、おいしいと言うより先に、涙がこぼれた。

うつむいて、まだひりつく瞼をこすって、鼻をすする。
顔を上げると、頭に軽くなにかが触れた。


――ごめん。


右手を宙に浮かせた京極くんが、びっくりした顔で謝った。
頭に触れたのは、どうやら京極くんの手だった。

驚いたのはわたしの方なのに、どうして京極くんがびっくりするんだろう。

ふいに、笑えてきた。