――京極くんって、ソファーと同じ香りがするんだね。


その言葉の間違いに気づいたのは、彼女と手をつないで歩く藤井くんを見ても、胸が痛まなくなった頃だった。

京極くんがソファーの香りなのではなく、ソファーが京極くんの香りなのだ。
そんなことにも気づかず、わたしはいつもあのソファーでふわふわと安心感に包まれていた。


そして、それは今日も。


「小町さん。レポートの調子は?」

ソファーでまどろんでいると、現実に引き戻された。
分厚い小説から覗く京極くんの瞳に、日差しが差し込む。

お日さまと緑。
全開にした窓から流れてくる空気は、初夏を孕みはじめた。

「ばっちり。京極くんにちょっと助けてもらったって言ったら、友達にびっくりされたよ。
そんなに仲よかったの? って。意外な組み合わせだってさ」

「それで、小町さんはなんて答えたの」

「夜な夜な一緒にカレーつくったくらい仲良しだよ、って」

わずかに、京極くんの顔がこわばった。
もう少し嘘をついて様子を見てみようかな、と思ったけれど、かわいそうになってしまったので、わたしは正直に言う。