「うわ、もうやだ……。お腹鳴るとか……」

「いや、そんなことは」

こんなことは生理現象であって、まったく気にならない。
だけど彼女にとってはそういう問題ではないのだろう。

「お腹、どれくらいへってる?」

「けっこう、へってる。昨日、ここに来るまでなにも食べてなくて」

ということは、彼女は昨日ジンジャーミルクティーとビスケットしか口にしていないことになる。
それだけ藤井のことがショックだったのだろう。

だれかに強烈に惹かれることも、なにかに熱心になることもない僕には、その気持ちは計り知れない。

そもそも僕の感情は大きく動くことがない。
いつだって水平線で、折り紙の折り目のように真っすぐだ。


昨夜を、除けば。


「なにかつくるよ。僕もお腹へってるから」

冷蔵庫をひらき、肉じゃがの材料が手つかずで揃っていることに気づく。
だけど、いまは肉じゃがよりも

「カレーつくったら食べられる? こんな時間だし、もっと胃にやさしいものの方がいいならそうするけど」

「え、カレー? 食べられるよ。食べたい!」

いくつもの星を宿した彼女の瞳が、僕に向けられる。

3時にカレーなんてどうかしてるか、と考えたけれど、言ってみるものだな。
彼女は僕の予想を超えていく。