「ふ、ふじいくんに、かのじょができたみたいで……。
ごめんなさい。こんな、泣くなんて。困っちゃうよね」

いつもきらきらと煌めいている小町さんの瞳が曇り、影を落とす。
積雪に落としたインクのように、鼻先が赤く染まっていく。

急いでティッシュを差し出したものの、その先が僕にはわからない。



――あんたって頭はいいけど、コミュニケーションっていうか、そういうのはダメだよね。
いつか後悔するよ。もうちょっと、どうにかしな。



子どもの頃から姉に言われ続けていた助言は正しかった。

小町さんにかけるべき言葉がわからない。
情報過多のこの世界で、答えが見つからない。


雨が窓を叩き、風がびゅうびゅうとあたりを震わせた。
濡れた睫毛の先から、よるべない哀しみがしとしとと零れ落ちていく。


僕は小町さんのティーカップに手をのばし、二杯目のジンジャーミルクティーをつくった。
シナモンのビスケットをソーサーにのせ、小町さんが手触りがいいと絶賛してくれたブランケットをクローゼットから出し、壊れそうな肩にそっとかける。

ダウンライトを調節すれば、外の仄暗さから身を守るようにリビングはあたたかいひかりに包まれた。


こんなことをして、彼女に手を差しのべたつもりか?
なんの手ごたえも感じない手に力を込めると、すきま風のようなちいさな声が聞こえた。


ごめんなさい。ありがとう。


小町さんはそう繰り返し、やっぱり僕はなにも言えなかった。