「京極くん、ありがとう。着替え終わったよ」

彼女は玄関から顔を覗かせ、招き猫のような手つきで僕を呼んだ。
その様子にどちらが家主だろうな、と思っていると

「ふふっ。どっちが家主なんだかね。
それにしても京極くんは紳士だね。お姉さんか妹さんがいたりする?」

「社会人の姉がひとり」

「京極くんのお姉さんなら美人だろうね。写真とかある? 見たい」

「ない」

「ええ? 本当はあるでしょ。目が泳いでたもん」

親戚じゅうから同じ顔だと評される姉の写真を見せるのは気が引けた。
「なにか温かい飲み物を用意するから、ソファーに座って待ってて」と話題を変える。
小町さんは「はぐらかしたでしょ」と指摘しつつも、大人しくソファーに座った。


キッチンでお茶を淹れながら、彼女の方に視線をやる。
膝を抱えたその姿は、心なしかいつもよりちいさい。

「どうぞ」

お茶を差し出すと、彼女の顔がわずかに晴れた。

「これ、まえにつくってくれたジンジャーミルクティーだよね?」

「よく覚えてるね」

「覚えてるよ。しょうがとシナモンが効いて、おいしかったから」