俺の呟きに、糸原は意味ありげに微笑んだ。
それが彼女の優しさで、こっちが変に気遣わないようにしてくれているのは長年の付き合いでわかる。
俺はいままで保志ばかり見ていたけれど、糸原は保志とちがう魅力があるのは知っていた。
大人っぽい外見は、どこか含みがあってとっつきにくい。
そのくせ、心を開いたら見せる無邪気な表情は、男のツボを得ていると思う。
「ほら、ここ座ろうよ」
連れてこられたのは、最上階の階段裏。
ひと気が少ない階段裏だから、あまり人と会いたくなかった俺には最適な場所だ。
どれもこれも糸原の優しさだと思えば、なんだか泣きそうになる。
彼女の横に座りながら頭に被った着ぐるみを脱ぐと、せっかくセットした髪がぐしゃぐしゃになっていてかなり萎えた。