「あ、沢内だ」
ふと声がしたほうを振り返ると、糸原エミが立っていた。
着物姿が様になる彼女の姿を目にしたら、なんだか言葉に詰まってしまう。
阿久間が教室に来たことをうわさで耳にしたんだろうか。
糸原は平静を装っているけれど、少し彼女の肩は上下している。
着物を着ているくせに、走ったのかもしれない。
なにも言えないでいる俺に構わず、糸原はきょろきょろと教室を見回す。
そしてクラス委員長のもとへ行くと、なにかを話してからこちらに戻ってきた。
「沢内、わたし焼きそば食べたいからついてきてよ」
「え、でもシフト……」
「さっきクラス委員長に言っといたから大丈夫。ほら行くよ」