「いらっしゃいませ」
すると、また一人。母親と手を繋ぎながら部屋に入って来た女の子も、パジャマ姿だった。
「はい」
「ありがとうございます」
「みーちゃん、飛行機乗ったことあるんだよ」
女の子から差し出されたチケットらしきものを受け取った先輩は、しゃがんで目線を女の子と合わせた。
「そうなの。飛行機好き?」
「うん。だから、ママと楽しみにしてたの」
「そうなんですよ。カレンダーに丸を付けて、凄く楽しみにしていたんですよ」
「そうでございましたか。ありがとうございます。では、お席をご案内させて頂きます」
「ありがとうございます」
「お姉さん。みーちゃんのお席、何処?」
しゃがんだまま、母親と会話をしていた先輩が立ち上がると、女の子はその先輩と手を繋いでいた。
「すみません。ほら、美香子。お姉さんの手を離しなさい」
「構いませんよ。みーちゃんのお席は、此処ですよ」
にこやかに母娘に接している先輩を見て、こちらまで思わず笑顔になる。
「いらっしゃいませ。お席をご案内させて頂きますので……」
次々と、部屋に入って来る子供達と付き添いの親達。それに応対している先輩達。もしかして、これって、機内を想定してるの?
「皆様、おはようございます。この飛行機は間もなく離陸体制に入りますので、どうぞお席から立ち上がらないよう、お願い致します。尚、前方スクリーンで離陸の現在の様子をご覧になれますので、ご覧下さいませ。Lady’s & Gentleman……」
すると、部屋のドアとカーテンが閉められて、暗くなった部屋の前方の大型スクリーンに、滑走路が映し出され、効果音と共に、何だか本当に飛行機に乗っているような錯覚に陥る。
「すげ−」
「ママ、滑走路だ」
子供達の歓声に、親達は一様に相づちを打っていた。
離陸をした機体の画像が映し出され、その後、操縦室の映像に画面が変わると、座っていた機長が立ち上がり、こちらを振り返ったところで、スクリーンの横から本当に機長の制服を着た男性が登場した。そのタイミングに驚いてしまったが、私でも驚くぐらいなので、子供達はもっと感嘆の声を発している。
「飛行機、落ちちゃうよ。パイロットが立ち上がっちゃったよ、ママ」
「大丈夫よ。飛行機には、副操縦士の人も居るから」
そんな親子の会話が聞こえてきたが、マイクを持った機長が挨拶を始めたので、一斉に機長の方を見ていた。
「皆さん、こんにちは」
「こんにちは」
挨拶を返した子供達の声は、本当によく響く。