「子供達と一緒にね」
「子供達……ですか?」
「そう。社会人だから、それ以上のことは言わなくてもわかると思うわ」
「そんな……」
「それが出来る人よ。貴女は」
折原さん。
「じゃあ、入るわよ。頑張りましょうね、矢島さん」
「おはようございます」
「おはようございます」
あっ……。
何が何だかわからないうちに、折原さんに習って、おはようございますと言いながらプレイルームと書かれた部屋の中に入ると、真っ先に目に飛び込んで来たのは、大型スクリーンとマイクのテストをしている高橋さんの姿だった。そして、部屋の中を見渡すと、その大型スクリーンに向かって何脚もの椅子が綺麗に並べられている。
あれ?
真ん中の空いている所は、通路だろうか。その通路を挟んで両サイドに三脚ずつ椅子が規則正しく等間隔に並べられていたが、所々、スペースを大きく取ってある、そんな箇所が数カ所存在していた。
「それでは時間になりましたので、皆さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
総務の人の掛け声で、もう何度も来たことがあるのか。着替えた部屋で一緒だった制服姿が決まっている先輩三人が、入り口付近に立った。
「矢島さん。こっち」
「は、はい」
折原さんに引っ張られるようにして部屋の片隅に移動し、緊張しながら何となく雰囲気的に息を殺しながら見守っていると、部屋の扉が開いた。
「おはようございます」
すると、そこに登場したのは、車いすに点滴棒を備え付けて、頭にはニット帽を被ったパジャマ姿の五歳ぐらいの少年だった。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
扉を挟んで立っている二人の先輩のお辞儀の仕方は、何て様になっているのだろう。
「お席にご案内致しますので、チケットを拝見させて頂けますか?」
ゆっくりと、少年にわかりやすいように説明をしているもう一人の先輩も、慣れた言葉遣いと物腰だ。
「品川様のお席は、7Aでございますので、こちらでございます。お母様は7Bでございますので、お隣のお席でございます」
よく見ると、椅子の背もたれの部分に数字とアルファベットが記載されたテープが貼られていた。