「君の心は、まるで干上がった湖のようだな。いくら水を与えても足りないくらいだろう」

 彼の言う通りだ。乾いて、ひび割れて、痛いのに涙も出ない。どうしたらこの渇きを癒せるの──。

 力なく目線を落とすと、いつの間にか茶色の子猫が一匹入り込んできていた。この庭によく来る野良猫で、とても人懐っこく私にすり寄ってくるのだ。

 今日もこちらにちょこちょことやってくる子猫を見ていると、自然に笑みが生まれるし、少しだけ気持ちが明るくなる。私もこの子みたいに、自由に生きていける日が来るかもしれないって。

「私には潤いもなければお金もないし、頼れる人もいません。でも、どんなにつらくても生きていかなくちゃ。この野良猫みたいに、強く」

 足にすり寄る子猫をひと撫でし、力を取り戻した気分で言った。

 数秒の沈黙が流れた時、強めの生ぬるい風が吹いてザッと植物の葉を揺らした。我に返った私は、慌てて黒凪さんのほうを振り向く。

「すみません、お仕事中なのに! しかも、こんな暑い中付き合わせてしまって……」
「話しかけたのは俺のほうなんだから気にするな。でも、そろそろ行くよ」