「鮫島さんは、一度こちらが提示した売却の価格が低いと言ってなかなか納得しなかった。普通、個人宅の査定をしに来るのは担当の社員だが、こういった客は例外だ。社長である俺が自ら足を運んで説得するのが一番スムーズに話が進む」
「そうだったんですね」

 中小企業の不動産屋ならまだしも、黒凪不動産ほど名の知れた企業の社長がここに来るなんて不思議で仕方なかったが、そういう理由だったのか。

 いや逆に、真摯な対応をしてきたからこそこれほどの大企業になったのかもしれない。

 それにしても大手の会社に対しても楯突くとは、叔父の強欲さには呆れてしまう。

「ここまで交渉が難航した個人の客は久々だからね。ここへ来る前に鮫島さんの人となりについてはある程度推測していたが、予想以上に問題があったようだな」

 黒凪さんの瞳がやや鋭くなり、嫌悪感を滲ませているように感じた。知られているなら黙っている必要はないだろうと、私も口を開く。

「叔父は、なにより自分の利益になるものを求める人です。私も、ただ都合よく使われているだけなので。この家や庭を売るのも、どこへ引っ越すかも、私の意思は関係ありません」

 現状を吐露すると、こちらに目を向ける黒凪さんの表情がますます険しくなる。