「そんなことはない。君自身も美しい」

 さらに空耳かと思うような言葉をかけられ、私は俯き気味になっていた顔をバッと彼のほうに向けた。

 ブラックダイヤのように美しく、そこはかとない色気を感じる瞳に捉えられてドキリとする。

 魔法にでもかけられたかのごとく目を逸らせずにいると、黒凪さんの手が私の頬骨の辺りに伸ばされる。

 軽く触れられ、心臓と共にビクッと肩が跳ねた瞬間……。

「顔に土がついていても、ね」

 まぬけなひと言が聞こえ、私は目をしばたたかせた。彼の指は、頬の汚れを拭うように動いている。

 まさか、さっき汗を拭った時に土がついていたの!? 星羅の言う通り汚い格好だし、汗臭いかもしれないし、やっぱり私なんかが黒凪さんの隣にいてはいけないんじゃ!?

 急激に恥ずかしさと劣等感を覚え、真っ赤になっているであろう顔を両手で覆う。

「記憶から消してください……!」
「畑仕事を頑張った証拠だろう。なにかに一生懸命な人は綺麗だ」

 黒凪さんがやや表情を緩めてさらりと告げ、私の鼓動が大きく乱れた。

 これまで畑仕事をして褒めてもらえたことなんてない。特に彼のような御曹司様は、私みたいな底辺の人間に優しい言葉をかけるイメージがなかったから驚いた。