まったく構わないけれど、高級そうなスラックスが汚れてしまうんじゃないかと思い、とりあえずレジャーシートを敷いてその上に座ってもらう。

 ……なんだか、奇妙な状況に。旧財閥の一族である高貴な彼と、こんなところで肩を並べているなんて。

 若干緊張しつつちらりと隣を見やる。所作にはどことなく気品を感じるし、腕時計や靴も光り輝いていてお高そうだし、まったく畑が似合わなくてちょっぴりおかしい。

 なんとなく身を縮めてじっとしていると、彼が畑を眺めて口を開く。

「ここの野菜は君が育てているのか?」
「はい。夏野菜にさつまいも、冬はほうれん草や白菜も採れます。この畑だけは、私のテリトリーなんです」
「そうか」

 まあ、それもじきになくなりますが……と、現実を思い出して肩を落とした時。

「深春」

 突然名前を呼ばれ、ドキリと胸が鳴る。しかし目を見開いて固まった直後、「というんだな、君の名前は」と続けられた。

 びっくりした……呼び捨てにされたかと。内心動揺したのを隠し、平静な顔をして頷く。

「あ、ええ。そうです」
「綺麗な名だ」
「なっ……名前だけは」

 名前だとしても、男性から綺麗だなんて言われた経験がないからどぎまぎしてしまう。どれだけ免疫がないんだ、私は。