それは構わないが、とにかく家について聞きたくて叔母に近づく。

「叔母様……この家、本当に売るの?」

「だから黒凪社長が来ているんじゃない。ここはお義父さんが亡くなって仕方なく相続したようなものだし、もっといい家に住みたいと思ってたのよね。売るなら今がいいみたいなのよ」

「そういう大事なことは、私も教えてもらわないと」

 さすがに黙っていられなくて物申すと、彼女の表情がすっと冷たく変化する。

「あなたになんの関係があるっていうの? どこへ行ってどんな家に住もうが、私たちの勝手でしょう。あなたは外で働いているわけじゃないから職場を気にする必要もないし、住む場所が変わってもやるべきことは今と同じなんだから」

 ──ああ、私は家族どころか、同居人だとすら思われていないのか。この人たちにとって、私はただの便利な道具にしかすぎないのだ。

 言葉を失って立ち尽くす私に、星羅がスイーツを載せたお皿を手にして近づく。

「新居には畑なんて田舎臭いものは作らないからね。今のうちに楽しんでおきなよ」

 意地の悪い笑みを浮かべてこそっと言い、リビングへ歩いていった彼女は、黒凪さんにはとっても愛想のいい笑顔を向けている。