彼が何事もなかったかのごとく敷地内へ入った直後、叔父が私の耳のそばで口を開く。

「お客様の対応もできないのか。役立たずめ」

 軽蔑するように小声で吐き捨てられ、私はぐっと拳を握った。

 いろいろと言いたいことはあるが、それより家の売却のほうが大問題だ。私も後に続いて家の中へ入ると、叔母と星羅がキッチンで珍しくティーカップやお茶菓子を用意しながら浮き立っている。

「黒凪社長って三十歳らしいわよ。若い上に、噂で聞いていた以上にイケメンじゃない!」
「あんなハイスぺ男子がいるなんて……! 大学の男子たちが芋に見えてくるわ」

 リビングに通された黒凪さんの姿を見て興奮しているらしい。まあ、あの容姿なら騒ぎたくなるのもわかる。

 とりあえず私も手伝わなければまた文句を言われると思い、手早く麦わら帽子やアームカバーを取ってキッチンに入ると、叔母が小声で言う。

「今日は私たちがお茶の用意をするから。あなたはそのまま外にいていいわよ」
「そうそう。そんな汚い格好を社長にお見せしたくないし」

 畑仕事をしたままの田舎っぽさ全開の私を、星羅は蔑むような目で眺めて言った。

 もうバッチリ見せてしまったけど……と思いつつ、彼女たちがお茶の用意を率先して行っているのは、相手が黒凪さんだからかと納得する。あんなに素敵な男性だもの、いい印象を与えたいよね。