「うっわ、先生ってば卑怯なこと言ってるー」


「勝負挑んでおいて、負けたらカッコ悪いだろ。
どう? 少しは動揺してくれた?」


先生が理玖の方に向き直った。
その声音は明るくて。
理玖が戸惑ったように目を数回しばたいて呟いた。


「……ちっ。趣味、わりー」


「お? 動揺したか。作戦勝ちかな」


あはは、と声をあげて笑う先生。
理玖の瞳にある疑いの色が、少しずつ影を潜める。


「さ、やろうか? 宮本がうろたえてる今のうちにやらないと、負けちゃうだろ」


「うわ、やめとく。やる前からこれじゃ、次はどんなこと言われるかわかんねーし」


「お? 宮本逃げ腰だなー」


先生が理玖のお腹に冗談混じりに拳をあてた。
と、背中に一際大きな声がかかった。


「……あ! 片桐先生見つけたっ。さっきうちの担任が探してたよー」


開け放してある窓から顔を出したのは、他のクラスの女の子たち。


「やばい。サボってたのバレたか?」


「えー、先生サボり中だったの? 黙っててあげるから早く行きなよー」


「助かる! じゃあみんな、悪いけど行くよ。
宮本。勝負はまた、いつか」