「玲奈!」


病室は見事に荒れていた。

倒れた点滴台。
割れた花瓶。
水浸しの花は踏み付けられていた。


「いや! いやあっ! 理玖っ、理玖を呼んでえっ」


看護師に押さえつけられた玲奈は激しく暴れていた。


「早く先生呼んでっ!」


「もうすぐ来ますっ」


「玲奈!」


走り寄ると、腫れ上がって半分も開かない瞳から涙が溢れた。


「りく……。あたし死ねなかった」


「玲、奈」


「死ねなかったの。きっと……理玖と離れたくないから」


潰れた声は、玲奈の軽やかな綺麗なそれとは全然違っていた。
切れていた唇の端、その傷口が開いたらしい。血が滲んでいた。


「喋るな、玲奈」


「好きなの。理玖しかいないの。捨てないで、一人にしないで……」


「先生! こちらですっ」


バタバタと医師が駆け込んできた。
室内を見渡して眉を寄せた。


「鎮静剤を」


「はいっ」


玲奈の気迫に圧されて呆然としている俺の腕に、何かが触れた。
は、と見ると玲奈の指先だった。

ぶるぶると震えながら、玲奈は俺の手を求めていた。


「りく……り、く」