教室を出て行こうときびすを返した先生が、ふと足を止めた。

くるり、と輪の外側にいたあたしに向き直り、大きな手をぽんと頭に置いた。


「椎名。浴衣姿、本当に可愛いな。見れてよかった」


穏やかににっこりと笑って言った。


「それから青山も。いいもの見れたな。じゃあ」


結衣にも同じように笑いかけ、先生は出て行った。


「ちぇー。もっと先生といたかったのにー。ね、真緒」


結衣が残念そうにその背中を見送った。


「え!? ああ、う、ん……」


まだ頭に残る、先生の手の感触。
今この場であたしに言葉をかけたこと、
意味を含んでいるのだろうか?

触れられたところにそっと手をあて、小さくため息をついた。


「……ホントだ。二人とも、可愛いな。浴衣なんて着てるんだ」


理玖の声に、びくりとなった。


「え!? あっ、ありがとー、理玖くんっ」


結衣が嬉しそうに言った。
ぱ、と見ると、理玖があたしを見つめる視線とかちあった。

その瞳は鋭くて、何か言いたげだった。

けれど、今のこの状況で理玖と話せる筈がない。


「ありが、と」


ぼそぼそと呟いて、小さく頭を下げた。