スイスイと登っていく。ツリークライミングだ。
高みに向かって登りながら、チェーンソーやノコギリを駆使して枝を剪定していく。剪定された枝を下にいた彼のお父さんと合図を送り合いながら、狙い定めたところに落としていった。その合図はまるで手話のようだ。

一連の作業がしなやかで、食い入るように見てしまった。父が興奮するのもよくわかる。父のことを思い出していると、本人が目の前に現れた。

私の驚いた表情を見てスマホにメッセージを打ち込む。

『びっくりしたか?どうしても見たくて仕事を昨日終わらせた』

そんなに見たかったのかと思わず吹き出してしまった。

父は別荘に置いてあったヘルメットを被り、ガーデンチェアーを持ってきて私の横に腰掛けた。

その間も作業を続けていた駿さんの姿は、かなり高い所にあった。下から眺めていると、そのまま青空に向かって飛び立っていくのではないかと思ってしまうほどだった。

〜空に一番近い〜

今の彼はまさしくそうだ。
ロープと己の感覚だけで登っていく。そのバランス感覚は野生的とも言えるのではないのだろうか。

この技術を身につけるのに、相当な努力をしたのだろう。けれど、彼を見ていると、生まれながらに持った才能に見えてしまう。
そう、天性のバランス感覚。

庭のクスノキはあれよあれよという間にスッキリとしていった。屋根の窓にかかっていた枝も取り除いてくれて、遮られていた太陽の光も根本の方まで程よく届くようになった。

彼が言っていたように、苦しかったクスノキが、大きく深呼吸でもしているかのように見えた。

大迫駿、私の目に映る彼は、空に一番近い場所でキラキラと輝いていた。

作業が終わると、彼らと父が挨拶を交わす。名刺交換だ。

父は彼らを別荘の中へ招き入れた。
やっと会えた空師を父がみすみす帰す筈がない。

私は日本茶を淹れようと思ったのだけれど、茶葉を切らしていたこともあり、叔父からもらったインド土産の紅茶を淹れることにした。この紅茶は飲みやすくて父も好きなので、彼らも飲んでくれるのではないかと思ったのだ。