(十二月三十日、凜の27歳の誕生日)

大掃除を済ませ、自分の誕生日だけどパーティー用の料理を準備していると、翔パパからメールを受信した。
『今年は積もる話もあるだろうから、おじさんは友人と飲みに行ってくるね』
すぐさま折り返しの電話をしたけど繋がらない。
もしかしなくても、気を遣ってくれたようだ。

十九時少し前、翔が我が家にやって来た。

「えっ、………どうしたの、その格好」

ママのお葬式の時以来だと思うけど、翔のスーツ姿を目にした。
礼服とは違い、細身でカジュアルっぽさもあるスタイリッシュなスーツを身に纏った彼は、後ろ手に隠していた花束を差し出した。
生まれて初めて彼から花束を貰う。

「え、何、どうしたの?」
「照れるから早く受け取れ」
「……ん、ありがと」

何だかよく分からないけど、素敵なバラの花束。

「約束覚えてるよな?」
「……ん」

翔の言葉に小さく頷くと、彼は安堵した表情で小さく息をついた。

「凜」
「ん?」
「競技生活二十二年、傍で見守ってくれてありがとう。やっと一つ目の夢が叶っただけで、俺にはまだ叶えてない夢がある」
「ん」
「その叶えてない夢には凜が必要なんだ。この先もずっと俺の傍で見守ってて」
「……ん」
「俺と、結婚して下さい」

そう言って差し出されたのは指輪ではなく、貯金通帳。
しかも、開かれてるページの桁があり得ないほど多いんだけど?!

一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億?!!!!

「ごめん、無理」
「はぁ?」
「無理ムリむり」
「お前、何回目だと思ってんだよっ」
「……17回目でしょ」
「いい加減、俺の気持ちに気付けよッ」