転倒したのは世界ランキング一位のデュック選手らしい。
現在ランキングポイント一位ということもあり、連覇がかかっているから軽い怪我くらいなら続行するそうだ。
以前観戦した時は知らなかった、テント内の緊迫した様子。
これならLive配信が出来なくても理解出来る。

「凜ちゃんっ、次がラストだ!」

さすが元プロ。
体で周数や感覚を覚えているみたい。
私なんて何周なのか指で数えてたのに、すっかり分からなくなってるのに。
ゴール地点付近はメディアと各国のチームスタッフが集結しててとても近づけない。
私と翔パパは少し離れた場所から翔にエールを送る。

ゼッケン2135。
ゴール手前十メートルくらいの場所から前輪を持ち上げ、ウィリー走行で左手を大きく掲げた。

「しょぉぉぉ~~~ッ!!」

翔パパが隣りで発狂している。
私は体が震えて声が出てこない。
だって、優勝したのは翔なんだもん。
感動と嬉しさと、言葉にならない感情が堰を切って溢れ出す。

『翔、世界王者、おめでとう』

「『おめでとう』言えに行けそうにないな…」
「世界王者ですもん、仕方ないですよ」

***

ランキングポイント一位だったデュック選手が十八位だったため、合計ポイントで一位になった翔は世界王者の座を手にした。
各国のメディア取材やチームによる祝勝会。
それと、主催者からの対応に追われ、半日経っても近づく事すら出来ない。

結局、翌日になっても翔は忙しそうで、合間を縫って会いに来てくれたけど、とてもゆっくりできる状態ではない。

「時間が取れるようになったら連絡ちょーだい?」
「……ごめんな」
「謝らないでよ。翔の夢が叶ったんだよ?私も嬉しいから」
「落ち着いたら連絡するな」
「うん」