(MXGPシリーズ第六戦、スペインにて)

十八時。
食堂をいつもより早めに終わりにして、同じく早仕舞いした翔パパとリビングで待機中。

レーシングチームのLive配信はほぼ諦めてる。
最初は毎回更新されるけど、いざ試合が開始すると人手が足りないのと、サイトにアップする余裕がないらしくて。
結局毎回終わった頃に翔パパが確認の連絡を入れている。
五戦目までの合計ポイントが現在三位。
翔パパも祈る思いで我が子を応援する。

***

「翔、何位だって?」
「一位だってっ」
「えっ?ホント?」
「うん、相性がいいって言ってたしな」

昨日の電話で私も聞いた。
スペインのコースは、毎年相性がいいって。
有言実行みたいな、本当に凄いと思う。
プレッシャーもあるだろうに……。

「凜ちゃん、今夜は少し遅くまで起きててやって?」
「はい」

きっと、翔から電話が来るもんね。
レース後は取材やら祝勝会やら忙しいだろうから、今夜は彼からの電話を楽しみに待っとこ。

***

午前一時過ぎ。
翔への送り込みの荷物を詰めていると、スマホが鳴った。

「もしもし?」
「遅くなってごめんっ」
「おめでとう!!」
「さんきゅ~」
「お酒いっぱい飲んでるんでしょ?」
「ん~、まぁな」
「美人スタッフにちょっかい出すと後でややこしくなるから気をつけなね?」
「何、心配してんの?」
「だって、酒癖悪いじゃん」
「フフッ、凜限定だっての」
「何それ」
「覚えてるか?」
「ん?」
「俺がレースに復帰出来るようになったら、お願い事一つ聞くってやつ」
「……うん、覚えてる」
「あれ、今使うな」
「……ん」
「今年の凛の誕生日の贈り物、拒否るの無しな」
「え、……指輪じゃないよね?」
「指輪は用意しないから安心しろ」
「婚姻届けでもないよね?」
「それもない。ってか、それしたら俺相当ヤバいやつじゃん」
「なら、いいよ。分かった」