「彼氏はいないよ」
「……ホントか?」
「うん」
「じゃあ、何だ。彼氏じゃなくて、パパがいるとか?」

凛に限って援交してるとは思えねぇ。
そんなことしてたら、凜ママにぶっ殺されるだろ。

「血の繋がった父親ならいるにはいるけど、会ったらママに殺されちゃうよ」
「だよな」

凛の実の父親からDV被害を受けていた凜の母親。
酒乱が酷くて、凜も巻き添えになることも多々あった。
だから、再婚はしないと言ってるし、凜に対しても父親は死んだと言い聞かせている。
だったら、何でこんなに遅くまでほっつき歩いてんだ?

「俺に隠し事か?」
「……何のこと?」
「今日は誕生日だから大目にみてやろうと思ったけど、そんな気分じゃねぇ」
「………怒ってるの?」
「ん」
「何で?」
「言いたくない理由が何かあるんだろうけど、俺にだけは隠さないで欲しかった」
「………ごめん」

認めたよ『ごめん』って。
それって、どういう意味?
ものすげぇ、モヤモヤ感がハンパねぇんだけど。

「寒いから帰るぞ」

ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、凜の家の方へと歩き出す。
すると、そんな俺のジャケットを凜はほんの少し掴んだ。

「あのね」
「……ん」
「アルバイトしてるの」
「は?」
「ア・ル・バ・イ・ト」
「それは分かったけど、何で?金に困ってんの?」
「困ってないけど、……困ってる」
「意味わかんねぇ」
「だから、……あのね」

凜は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。