俺の父親は、和美人の凛ママに好意を寄せている。
凛の父親がアルコール中毒で酒乱だったということもあり、凜ママは小料理屋ではなく『食堂』として経営している。

けれど、結婚はこりごりだと言う凜ママと、俺が凜と結婚したいからという理由で、父親には凜ママを諦めて貰っている。
心の中で思うのは自由だが、『絶対一線は越えるなよ?』と。
これは男同士の約束だから、父親が変な気でも起こしたらただじゃおかねぇ。
だって、両方の親が結婚したら、俺と凜は兄妹になるじゃん。
んなことは絶対に許さねぇ。

「敬子さん、明日は凜ちゃんいるんだよね?」
「たぶん、……いると思うんだけど」

は?自分の誕生日にどこかに行く奴がいるか?
いや、待てよ?
もしかして、彼氏でも出来て、今日も明日もデートとか?
ふざけんな。
こうして遥々帰って来たってのに、会えないとかマジでありえねぇんだけど。

商品を選ぶふりして、親たちの会話を盗み聞きする。
どうやら、凜は朝から晩までいつも家を空けるらしい。
どういうことだ?

***

毎年恒例、凜の誕生日は凜の家で家族団欒みたいに四人で過ごす。
年末ということもあり、食堂も休みにしてるし、父親の店も年末年始休暇にしている。

午前中に軽いロードワークを済ませ、昼過ぎから父親のショップでバイクを分解して組み立てる。
モトクロスはバイクを乗りこなすだけじゃない。
こうしてバイクのメカニズムを知ることも大事なことだ。

「翔、そろそろシャワー浴びて凜ちゃんちに行くぞ」