開いたラブレターの中に、もうひとつ、一回り小さな紙が折りたたまれていることに気づいた。
 それは、現代語で記されている。

「愛しい、あなた様へ」

 声に出して、気がついた。
 これはきっと、先生が、解読した内容を私でも読めるようにかいてくれたものだろう。

 江戸時代の少女が、意中の男性に宛てた手紙。人の手紙に、勝手に思い出を増やしたことはしのびないが、私にとっては先生との思い出の手紙でもある。

 そっと、その先を読み進めた。

 ――

 私はあなたの横顔を見ると、いつも惚れ惚れしてしまいます。
 笑った顔はもちろんのこと、悩んでいる顔、困っている顔、どれもとても素敵で見惚れてしまうのです。
 私はこんなことを思うのに、あなたを恋い慕っていないわけがありましょうか。

 あなたを見ているだけで、こんなにも苦しくなるのです。
 なので、想いを伝えてしまおうと、筆を取りました。

 昨夜の夢に、あなたが出てきました。
 目が覚めてしまい、夜が明けてしまったのはとても残念でした。
 けれど、夢の余韻の中で、あなたを想いました。
 今、ここにいなくとも、あなたに想いを馳せられるというのは、とても幸せなことだと思い知りました。

 こんなにも想いを寄せているというのに、どうして話せないのでしょう。
 こんなにも想いを募らせているというのに、どうして緊張してしまうのでしょう。

 私には色恋というものが、苦手なのかもしれません。
 けれど、こうしてあなたへ手紙をしたためていると、不思議と温かい気持ちになるのです。

 つまり、好きなのです。

 あなたの発想に、元気をもらいました。
 あなたの言葉に、勇気をもらいました。

 だから、メディアの前に出てみようと思ったのです。――


 そこまで読んで、はっとした。

(これ、先生のこと――!?)

 先生の冗談なのか、それとも本気なのか。
 もし本気なら、嬉しい。
 けれど、そんなことって――

 急に心臓が壊れたようにバクバクと音を立て始めて、短く深呼吸した。
 落ち着いてから、続きに目を通す。

 ――

 この気持ちに答えてくれるなら、今日の午後3時に、あなたが滑って転んだあの場所で、あなたをお待ちしています。

 ――
「え、今日の午後3時って!?」

 気持ちに答えて欲しい、そんな締めに胸がキュウっと苦しくなる。
 叶うなら、答えたい。
 同時に、とんでもなく近い未来の約束を突きつけられて、動揺し思わず大きな声を上げてしまった。

 ――そもそも、先生は私の具合が悪いのを心配して送ってくれたんじゃなかったの!?

 何だか分からないが、私が滑って転んだ場所はあそこしかない。
 ポケットに入れたままのスマホの画面を見た。
 午後1時半。約束まで、ちょうど1時間半。

「い、急いで準備しなきゃ!」

 勘違いだったら恥ずかしい。
 けれど、今先生に会いに行かなきゃいけないと、どうしても答えなきゃいけないと、そんな気持ちが私を突き動かす。

 私は慌てて身なりを整えると、手紙を手に家を飛び出した。