「貴博、これからどうする?」
「ん? このあと、特に予定はないけど」
「久しぶりに、飲みに行くか?」
「いいね。ちょうど喉も渇いてるし」
着替えながら仁と会話をしていて、ふと思い出した。そう言えば、さっき彼女が何か言いかけて話の途中だった気がする。
「さて、行きますか」
あっ、居た。
「仁。ちょっと悪い。先、歩いててくれないか」
「あぁ」
ちょうど着替えを終えたみたいで、彼女も出てきたところだった。
「ゴメン、さっきは話が途中になっちゃって」
「あっ、いえ……」
「それで、話の続きって何?」
「えっ? あの……」
そんな、急に言われても……。貴博さん困る。
「これから貴博と飲みに行くんだけど、良かったら一緒に飲みに行かない?」
仁?
先、歩いてろって言ったのに。
「あの……いいんですか? 私も一緒に行っても」
「構わないよ。なっ? 貴博?」
「あぁ」
貴博さん。何か、あまり気が進まないみたいな返事の仕方。
「でも急に申し訳ないですから、また今度……」
「居酒屋だけど、いい?」
エッ……。
貴博さん。それって、私のこと誘ってくれているの?
「も、もちろんです」
「それじゃ、決まりだね」
「私も、お供していいですかぁ?」
?……。
カレンったら、いつの間に?
「もちろん」
仁さんの人当たりの良さにカレンは上機嫌で自分の腕を仁さんに素早く絡め、並んで歩き出そうとしていたが、仁さんがこちらを見てニッコリ微笑んでから歩き出したので、思わず貴博さんの顔を見ると、貴博さんは何も言わずに歩き出してしまい、慌てて私もそれに従った。
貴博さんの後ろ姿を見ているだけでも、ドキドキしている。私、こんなに貴博さんのことが好きだったんだ。今更ながら、自分で自分に驚いてしまう。
貴博さん。いつの日か、後ろからいつもあなたを見ている私に、振り向いて下さいね。
「お酒は、飲めるの?」
うわっ。
貴博さんったら、もう振り向いてくれちゃった。
「あっ、少しなら……。というか、すぐ眠くなっちゃうんで……」
「そうなんだ。それじゃ、1時間ぐらいで切り上げようね」
貴博さんとの会話が聞こえていたのか、仁さんが話に割って入ってきた。
仁さん……。
1時間だなんて、もっと長く貴博さんと一緒に居たいのに。そんなこと言われちゃったら私、行く前からすでに時間を気にしちゃいそう。
「えぇっ。1時間じゃ、短すぎるわよぉ」
カレンったら……。
カレンは仁さんのこと好きみたいだったから、きっと今、私と同じ気持ちなのかもしれない。
貴博さんたちと入ったお店はまだ夕方だったせいもあって、そんなには混んでいなくてすぐに座れたが、何故かカレンに仕切られて仁さんの隣にカレンが座ってしまったため、必然的に、私は貴博さんの隣に座ることになってしまった。
嬉しいような、それでいて緊張して生きた心地がしない。
仕事以外で貴博さんと一緒に居るなんて、初めてのこと。どう振る舞っていいのか、まともに隣の貴博さんの顔も見られないし本当に困った。
「何、飲む?」
仁さんが、アルコールメニューを真ん中に広げてくれている。
「私、カシスサワー。泉は?」