「ちょっと先輩、本当に大丈夫だから」


右手に私のかばん、左手で私の体を支えながら谷口先輩は玄関へと
向かう。そして、玄関を出たところに置かれていたママチャリの前に
立つと、サドルを2回ぽんぽんと叩いた。


「乗ってけ。安全運転で行くから」


ママチャリ乗ってるやつ探すのけっこう大変だったわ、と笑いながら
谷口先輩は私のかばんをカゴに入れ、後ろに乗るよう促した。後を
追うように校舎から出てきた純希先輩たちが『谷口とママチャリって
ウケる』などといいながらスマホを向けると、谷口先輩もまんざら
でもなさそうにポーズをきめる。そんな様子の先輩たちの勢いに
戸惑っていると、いつのまにか私の背後にいた晴夏がこう囁いた。


「ここは甘えちゃっていいんじゃない?」


そういうと、晴夏は私をママチャリの後ろの荷台に座らせ、『ほら、
ちゃんとつかまって』と私の手を谷口先輩のお腹の前に回させた。

気を付けて帰れよー、とみんなに見送られながらママチャリは出発
した。見送る一団の後方には翔平の姿も見えたけど、こっちを見て
いたかどうかまではわからなかった。




「翔平は押しが足りない」


憮然とした表情をしている翔平の横で晴夏が呟いた。
聞こえているのかいないのか、翔平は無言でその場を後にした。