だけど、流石に黙っていられない事態が起きた。
咲玖がお土産にくれた湯けむりにゃんこのマスコットがなくなっていたのだ。
「ねぇ、あんたたちでしょ。私の猫のマスコット隠したの」
面と向かって詰め寄ったが、彼女たちは素知らぬフリをする。
「何のこと?」
「とぼけないで。返してよ!」
「知らないもん。言いがかりやめてよ」
「猫のマスコットってあの変なやつでしょ?あんなの誰も取らないから」
しらばっくれて…!
「いい加減にして!!あれは咲玖にもらった大事なものなの!」
「だから知らないって言ってるじゃない!」
手が私に向かって振り上げられる。
殴られる、と思った矢先、咲玖が突然私の前に飛び出してきた。
――パン!
乾いた音が響き、咲玖の頬にビンタが決まる。
「咲玖!?」
「うっ、大丈夫?桃ちゃん」
「バカ!何やってるのよ!」
殴った方も咲玖が飛び出してくると思ってなかったのか、動揺している。
「謝りなさいよ!」
「あ、ごめんなさ…」
「大丈夫。でも、桃ちゃんにも謝ってね。どんな理由でも、人を傷つけることしちゃダメだよ」
「…っ、ごめんなさい…」
「うん、もうやめてね」
そう言うと咲玖は私の手を引いてその場を離れた。
「ちょっと咲玖!」
「桃ちゃん、これ」
そう言って咲玖が渡したのは、ピンクのタオルの湯けむりにゃんこだった。
「あ……」
「校庭の隅に落ちてたの」
「ありがとう…」
私はマスコットをぎゅっと抱きしめる。砂埃で少し汚れてしまってしまっていた。
「ごめんなさい…せっかくくれたのに」
「ううん、私嬉しかったよ」
「え?」
「大事なものだって言ってくれて」
そう言って咲玖は、にっこりと微笑んだ。
もしかしたら、気づいていたのかもしれない。
でも、咲玖は何も聞かなかった。マスコットが落ちていた理由も、私が殴られそうになっていた理由も。
「このにゃんこ、もっと大事なものになった!」
それがすごく嬉しくて、私は思わず咲玖を抱きしめていた。