その4



「奈緒子さん…、今の水野さんから得た”材料”で、確かに、いくつもの仮定を浮き立たせることができます。何と言っても鬼島の直接念じの限界値…。ここへ切り込むピースが何枚か…」

ハンドルを握りながら、目線は前方に向けたまま、和田はどこか思いつめたような横顔だった。

「ええ、そうですね。1次呪い主と2次の規則性から、鷹山さんと国上にはその限界値を計る重要材料になると思いますよ、私も…」

「だからこそ、足りないピースが何としても欲しい…。丸島の事案を持ちこんだ当初から、あの二人には、鬼島がそもそも何を目的として捉え、どこを到達点としてるのか…。そのモチベーションも含め、その辺が想定できれば、おのずと限界値を折り込んだ呪いの封殺が成し得ると言い続けいましたからね」

この点は、今までも丸島から聞いていたことであったが、水野から有意義な話を聞き得ることができたことで、正直、安堵感・満足感に浸っていた奈緒子はある意味、ショックを受けたようだった…。


***


「要するに、”そこ”に達するためには、今日の水野さんから聞いた話を完全に生かす必要がある…。それには、鬼島のことを知ることが欠かせませんね…、やはり」

「そうなる…。三浦美咲をあの呪いから解き放つには、どしても限界値を国上さんに掌握してもらった施術が欲しい…。血のりを開封させない施術だけでは不十分だ」

奈緒子の顔には”その通り”と書いてあった。

「…彼女が丸島と同じテーブルに乗ってるなら、呼び寄せ夢で手紙を強制閲覧させられる可能性は強いよ。そうなったら、彼女は…」

「わかりました。即動きましょう、和田さん!」

「いいのか、奈緒子さん…」

奈緒子は大きく、そして力強く頷いた…。
そして、和田の愛車フィットは間もなくUターンして、一路、故鬼島則人の家に向かってスピードを上げた…。