新田さんが、ひらひらと用紙を私に見せる。
 「花崎さん、とりあえず来週海外出張予定なんで、この仮払申請ウチは通ったので、あと頼むよ。」
 申請書をわざわざプリントアウトして頂かなくても、システム経由でも良かったのに。

 「急ぎなんですか?」
 「ご名答。システム経由だと、絶対後回しにされそう。金額分かれば色々振り分けできるんだ。」
 「新田さん。海外出張多いですけど、英語得意なんですか?」
 「……うーん。得意というか、まあ、何とかなる程度。」

 「すごいですね。私なんて、方言も分からないくらい、日本語標準語のみの純粋日本人です。」
 「はは、本当に花崎さんて面白いよね。今度、アメリカから帰ってくる僕の2つ上の人がこっちに来るんだけど、その人についてアメリカ回ってたら大分しゃべれるようになったよ。教えるのもうまい人っているんだよな。」
 嫌な予感。顔色が変わった私を見て、新田さんが黙った。

 「どうした?」
 「あ、いいえ。先ほど、総務のほうにいらした高野さんって方ですか?」

 「そう。見たんだ。じゃあ、君もファンになった?すげえ、女の子に人気なんだよ。ま、身長高いし、大学からあっちにいたらしくて英語べらべらだし。仕事も出来るときてる。俺のライバル登場だ。」
 「そうですか、新田さんもイケてますよ。空気読むのお上手だし、スーツ似合うし。」

 プッと吹き出すと、新田さんはこちらを見てにっこりと笑った。
 「花崎さん。沢渡に内緒で一度飲みに行こうよ。楽しく飲めそうだ。」
 「そうですね、機会があれば。」