「わかった。よろしくお願いします。」
 「よろしい。では明日な。おやすみ。」
 そう言うと、亮ちゃんは頭にキスをひとつ落として出て行った。

 翌日。亮ちゃんの車に乗っていつもより30分早く会社についた。

 地下の駐車場では誰にも会わず、そのままフロアまでエレベーターも直行した。
 下りる直前に亮ちゃんから言われた。
 「今日、内示が下りる予定だ。雫達も忙しくなる。よろしくな。」

 背中を押されて先に自分のフロアで下りる。
 手を振る亮ちゃんに自分も手を振って応える。

 早く来ていた部長に長いお休みのお詫びをしていると、課長も入ってきて、軽く亮ちゃんとのことをからかわれた。

 続々と出勤してきて、部内と隣の人事部の人にお礼とお詫びを言う。
 みんな、大人だから何も言わない。さすが。噂話厳禁の部署だからね。

 昼間はとにかく忙しく、たまっていた仕事を片付けるので精一杯。
 昼も社食へ行く余裕もなく、作ってきたおにぎりを食べる。

 メールでカスミに謝る。落ち着いたら話そうと言ってくれた。
 こっちのことは任せてと。
 優しいな。そして信じてくれてるんだと嬉しかった。
 こういうとき本当の友達かどうかわかるよね。

 午後に入って、人事総務が会議室に集められた。
 例の亮ちゃんの件だなとわかった。

 人事部の部長が立ち上がり、座ったみんなをなめるように見つめた。
 「先ほど、新営業3課の内示が出た。まだ一応内示段階なので極秘だが、営業は機構改正が一部含まれるので、異動が多い。秘密にするのも限界がある。だから、聞かれたら知らないと応えてくれていいが、返事がどうしても必要と考えたら、それぞれの課長に相談するように。上で判断するのでよろしく頼む。」

 「続いて、内容を伝えておく。営業三課は海外部門になる。今まで、一課の海外関係の係が異動となる。二課からも異動になる。異動の予定者はこのプリントの通り。今から配布するが見たらこの部屋を出るときに回収する。それと、三課の課長は高野亮君。課長だが、実質部長待遇になると思われる。これもまだ極秘。一応総会後に彼の身分は決まるので。」