その甘さ、毒牙につき


「…わかった。ちょっと頑張ってみる」



「ん、頑張れもも。私もとーぜん応援するから!もものためならなんでもしちゃうよ?」



最後のコーンフレークをパクリと口に入れ、親指を立てる芽奈に笑みをこぼす。



「ふふっ、ありがと。芽奈」



やっぱり、芽奈が友達でよかった。



なんて、ほっこりしていたのもつかの間。



「…よし、そうとなったら行くよもも!」



「えっ、ちょっと芽奈…?!」



パパっと支度を済まし立ち上がった芽奈に続いて、私も仕方なく立ち上がる。


「なに?いったいどうし……」



「大安吉日!知ってた?今日は大安なの。だから服屋へレッツゴー!!」



「えぇっ??!」



目をランランとさせて、私を引っ張っていく芽奈。



わけがわからず、芽奈に引っ張られるがまま。



お会計だけ済まして、駅に向かった。



「あ、もしもし涼太?今日店空いてる?うん、うんそう…おっけーありがと!!すぐ行くから!」


ホームで電車を待っている間、何やら涼太くんと思われる人物と電話をし始めた芽奈を凝視。



「ね、ねぇ芽奈?これからどこに…」



「ん?ももを大変身させるの」


あっけらかんと答えるから、つい「そっか」と頷きそうになって我に返る。



「いや、答えになってな…」



「あ、電車来た!だいじょーぶ!悪いようにはしないから…!」



………どうしよう。



過去一不安。



結局何も教えてもらえぬまま、2駅分の時間が流れて行った。


「とうちゃーく!ようこそ、我が家へ!」



「……え?」



「じゃじゃーん!」と手を大きく広げる芽奈が、自信満々に言う。



駅から降りて徒歩数分。



やってきたのは、とてもオシャレな服屋さん。



レディースはもちろんメンズ物も置いてある店らしく、ショーウィンドウにはセンス良く着こなされたマネキンがポーズを決めている。



「我が家……ってことは、もしかしてここって芽奈の家…ってこと?」



「うん、そーだよ」



「そーだよ…って…」



初めて聞いたよそんなの…。

相変わらずの芽奈に呆れつつ、気を取り直してもう一度よくお店を見てみる。



いかにもオシャレな人しか来なそうな雰囲気だけど…。



芽奈のご家族が経営しているということもあってか、入りにくさは全くない。



むしろ、「どうぞどうぞ〜」と歓迎されている感まである。



「あ、涼太〜!こっちこっち!」



すると突然声を上げ、手を振りだした芽奈。



……涼太?



もしかして…と思っていたら、案の定予想は当たり。



「はじめまして。芽奈の彼氏の北野涼太です。芽奈が突然誘ったそうで、本当すみません」

芽奈のスマホで見たことのある好青年が、申し訳なさそうに笑った。



「こ、こちらこそはじめまして…。芽奈から話は聞いてます。私の方こそ、急にごめんなさい…」



知っていたとはいえ、初めて会う人だから少し緊張してしまう。



最後の方は声もだいぶ小さくなっちゃったし…。



「いえ、俺は全然大丈夫ですよ。わざわざお越しいただきありがとうございます」



…なんて良い人なんだ。



話しているだけでも、涼太くんの人柄の良さが伝わってくる。



「まぁ、立ち話もなんだし店入ろ?今日はももをとびきり可愛くしちゃうんだから!」

「何する気…?」



「心配ご無用…!はい、入った入った!」



私の背中を押す芽奈と、それを微笑ましそうに見ている涼太くんの図。



これから私はどうなっちゃうんだろう…?


***


「もも……ヤバい」



「え、なにが…」



「天使が生まれちゃった」



「へ……?」



あれからは色々大変だった。



着せ替え人形にさせられ、様々なジャンルの服を着たり…。



あーじゃないこーじゃないと言う芽奈に、さんざん髪やら顔やらをフルメイクさせられて。



さっき「仕上げをするから目瞑ってて」と言われ、まだ目を開けていない。

「ねぇ、もう目開けてもいい?」



「うん、いいよ。飛ぶよ」



飛ぶってなに…?と思いながら、ゆっくり目を開ける。



鏡に映る自分を見て、目を疑った。



「これ……私…??」



そう呟いてしまうほど、ここに来る前の私とは別人のようになっていた。



「ももに決まってんじゃん!他の誰でもない、可愛い可愛いももだよ〜!!」



「お、大袈裟…って言いたいけど…」



この化けよう、大袈裟では無いような気がしなくもなくもない。



「はぁ〜やっぱり、素材がいいからナチュラルメイクが映えるわ。私の選択は間違ってなかった」



なぜか芽奈が自信満々に腰に手を当てて、親指を立てる。



「どーよ?これならももだって、自分のこと“可愛い”って思えるでしょ?」



「う、うん……可愛いかも」



「“かも”じゃくて可愛いんだよー!!」



口をぷくーと膨らませて、ガバッと抱きついてくる芽奈にびっくり。



「わぁっ…!もうっ、いきなり抱きつかないで」



「だって、ほんとのほんとに可愛いから。前から可愛かったももが、無敵になって…コレ見たら瑞樹千冬も、即ノックアウトだよ」