「私はね、藤堂さん。入学してから、ずっと大和くんのことが好きだったの。」


「えっ?でもあなたとは、去年クラス一緒じゃなかったよね。なんで大和のこと・・・?」


「私は入学式の日に、彼に助けてもらったんだ。」


「えっ?」


「あの日、私、緊張しちゃって、駅から学校に向かう途中で、気分悪くなっちゃって、校門の少し手前で蹲ってたんだ。どうしようと思ってたら、1人の男の子が声を掛けてくれた。」


と話し出した弥生の言葉を聞いた七瀬の脳裏に、1つの光景が甦って来る。


「『どうしたの?大丈夫?』って、優しく尋ねてくれて、そのあとわざわざ保健室まで、連れてってくれて・・・。少し休ませてもらったお陰で、私は無事に入学式に出席することが出来た。お礼を言いたかったんだけど、その男の子は名前も言わずに、行ってしまったから・・・彼が同じ1年生の別のクラスの子だって、わかるまで少し時間が掛かっちゃって。」


「・・・。」


「お礼を言いたかったんだけど、なかなかその機会がないままに、そのままになっちゃったんだ。」


(あの時の子、佐倉さんだったんだ・・・。)


その光景の記憶は、一緒にいた七瀬にもあった。


「2年生になって、クラスが一緒になった。彼はおとなしくて、ほとんど周りと喋ったりしないんだけど、でも心根の優しい素敵な人だって、私は気付いてた。だって、クラスが一緒になる前から、私は彼のことを見てたんだもん。」


(まさか、私以外に大和を見てる、あいつの魅力に気付いてる子がいたなんて・・・。)


七瀬は自分の迂闊さに、愕然となる。


「私は彼のことがどんどん好きになって行った。でもそれが叶わぬ思いだということもわかってた。あなたがいたから。いつもベッタリくっついてるわけじゃなかったけど、生まれてからずっと一緒にいるあなたたちの絆の前には、どう逆立ちしても、私の入り込む隙間なんかない、あなたには絶対に敵わない、そう思って諦めてたんだよ。あの日までは。」


「・・・。」


「でもそんなことはないんだって、他ならぬ藤堂さんが、私に教えてくれたんだ。どういうつもりだったのかは知らないけど、あの日、藤堂さんは大和くんのことを晒しものにした。」


「それは・・・。」


「なんて残酷なことをするんだろうって、見ていて私は怒りを覚えたけど、すぐに気が付いたんだ。藤堂さんは大和くんを傷付け、そして手離したんだって。違う?」


「そんな・・・。」