翌日。


「大和くん。」


「うん?」


「私、放課後、生徒会の役員会があるんだ。だから今日は先に帰っててくれる?」


「えっ。大丈夫だよ、待ってるから。」


「私も本当はそうして欲しいけど、今日は新学期最初の役員会だから、文化祭の話とか、議題が多いの。だから、かなり遅くなっちゃうから・・・。」


そのあとも大和は、それでも待ってるとごねていたが、悪いから今日は先に帰っててという弥生の言葉に、しぶしぶ頷いた。


その会話を小耳にはさんだ七瀬は、ハッと2人を見た。


(よし。)


1つの決心が浮かんで来た。


その日の授業が終わり、大和を見送ってから、教室を出た弥生を追い掛けると、七瀬は声を掛けた。


「佐倉さん。」


「藤堂さん、どうしたの?」


振り返った弥生が思わずそう尋ねてしまったくらい、七瀬は厳しい表情をしていたが、本人は全くそれに気が付いてはいなかった。


「今日、これから委員会なんでしょ?それが終わってから、少し話せないかな?」


気負いこんだように言って来る七瀬に


「今じゃダメなの?」


弥生は不思議そうな表情を浮かべて、問い返す。


「私も部活があるし。落ち着いて話がしたいんだ。」


「そうなんだ・・・わかった。」


七瀬の様子から、何かを悟ったかのように、弥生も固い表情になって頷いた。


その後の練習時間を、ほとんど上の空で過ごした七瀬が、急いで着替えて、約束の場所である校舎の屋上に向かうと、既に弥生は待っていた。


「お待たせして、ごめんね。」


「ううん。私もちょっと前に来たばかりだから。」


そう言いながら、向かい合った2人。


「それで、お話って何かな?」


口火を切ったのは、弥生の方だった。


「お願いがあるの。」


七瀬は弥生を真っすぐに見て言った。


「大和を返して欲しい。」


「えっ?」


「私の大和を・・・返して!」


「藤堂さん・・・。」


「生まれてから、ずっと大和の横に居たのは私なのよ。大和は・・・私のモノなんだから!」


叫ぶようにそう言った七瀬に、一瞬驚いたような仕種を見せた弥生は、次の瞬間、静かに首を横に振った。


「違うよ。」


「えっ?」


「まず、大和くんはモノじゃない。そんなこともわからないの?」


弥生は冷ややかな視線を七瀬に向けた。