(こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったんだよ・・・。)


部活の練習に打ち込んでいても、友だちと遊びに出掛けても、七瀬の気持ちは晴れなかった。ポッカリ心に穴が開いてしまったような日々。隣に住んでいるという条件は変わらないはずなのに、めっきり顔を合わせなくなり、大和との時間が、当たり前のように存在するとばかり思い込んでいたのは、実は自分の思い上がりに過ぎなかったことを思い知らされる。


(なんで、あんなバカなことしちゃったんだろう・・・。)


七瀬は後悔に沈む。


そんな日々が2週間ほど続いた頃、部活帰りの七瀬は駅でバッタリ大和に出会った。見るからにめかしこんでいる大和に


「順調そうね、佐倉さんとのお付き合い。」


そう言ってみると


「ああ、お陰様で。これも七瀬のお陰だよ。」


屈託のない笑顔を浮かべて、答えて来るから、ズキリと胸が痛む。


「そ、そうよ。私がああしてあげなかったら、大和があんな高根の花とお付き合いできるなんて、ありえなかったんだから。感謝しなさいよ。」


「本当だよ。全く七瀬には感謝しても、しきれない。いい幼なじみを持って、俺は幸せだよ。」


これが別に嫌味でもなんでもない、大和の本心だから、タチが悪かった。


「それじゃ。」


「ああ、またな。」


これ以上、顔を合わせていることに耐えきれずに、七瀬は足早に彼から離れた。


それでも・・・実は七瀬はまだ諦めてはいなかった。一発逆転・・・ではないが、大和と弥生が、このままうまく行くとは限らない。


(みんなも言ってたけど、大和と佐倉さんじゃ、とても釣り合いがとれない・・・はず。)


むしろいずれダメになる確率の方が高い、七瀬は思っていた。いや、信じていた。だけど・・・。


七瀬にとって、やたら長く感じられた夏休みがようやく終わり、迎えた始業式。大和と弥生は、当たり前のように、寄り添って登校して来た。夏休みを経て、2人の距離がグッと近付いたのは、クラスメイトたちにも、はっきり看てとれた。


「俺たちのマドンナが、本当にあんな陰キャ野郎と・・・。」


「悪夢としか思えん。」


そう言って嘆く男子たちの声など全く意に介さず


「じゃ、弥生。」


「うん。」


笑顔を交わし合うと、2人はそれぞれの席に着いた。大和が今や、なんの躊躇いもなく


「弥生。」


と恋人のことを呼んでいるのを目の当たりにした七瀬は、あまりの衝撃に、思わず固まっていた。